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【コラム6】 ステンレス鋼

1.まえがき

当社は諏訪湖の近くにあります。ここから八ヶ岳に向かって行くと、「小平」という姓が多くなる傾向にあります。当地の紹介を兼ね、先ず本コラムでは2名を紹介します。

先ず数学者の小平邦彦先生。ご本人は東京の生れであるそうですが、お父さんの小平権一(ごんいち)氏が茅野市の生れです。小平邦彦先生の主たる業績は代数幾何学と複素多様体であり、農政官僚だった小平権一の長男でいらっしゃいます。略歴等はWikipediaを参照してください。

次はスピードスケート女子短距離界のエース、小平奈緒選手。ところでスピードスケートと言うと北海道出身者が多いような印象を私は持っています。例えば長野オリンピックで大活躍の清水保宏選手は北海道出身です。詳細はWikipediaをご覧になってください。北海道出身で、長野県内の企業に就職しているスピードスケート選手の活躍が目立つように思います。最近では北海道勢に交じって地元出身の小平奈緒選手が躍り出て来、地元のスケート愛好家を喜こばせております。平昌オリンピックで金メダルを獲得した後、地元茅野市で凱旋パレードを行っています。全国紙でも紹介されていますが、ここでは産経新聞に掲載の写真をご紹介します。

※ 以下本コラムでは、他のサイトからの引用は青字で表記しておきます。

 

2.スケート靴のブレード

スケート選手の次は、スケート靴の話に移らせていただきます。氷と接する金属の部分、即ちブレードはどのような金属でできているのでしょうか?鋼種の詳細までは私には分かりませんが、ステンレスだと思います。当地の子どもたちが履くスケート靴は、地元のサンエススケート製(現在はESCという会社名)のスピードスケート靴です。

更にスケート靴のブレードについて書いた記事を探してみました。2018年2月10日付の日本経済新聞の記事を引用します。標題は「スケート靴の刃、競技によって違う?」です。下の文章に出て来る「刃」が本コラムで言っているブレードになります。

同じ氷上のスケート競技でも、使用する靴はそれぞれ違う。例えば、「ブレード」と呼ばれる刃の厚さ。スケート靴メーカー、エスク・サンエススケート(長野県下諏訪町)によると、スピードスケートは速さを出すため刃は最も薄く、1ミリが基本。一方、フィギュアスケートやアイスホッケーは安定感を出すために3~4ミリ程度と厚くなる。

刃の形状もそれぞれ異なる。アイスホッケーは前後に滑るために、刃は前と後ろが丸まった形。フィギュアスケートの刃はつま先がギザギザで、この形はジャンプや回転、着地するのに欠かせない。ショートトラックの靴はトラックのカーブを回る際に体をぎりぎりまで倒しても、靴が氷上につかないように、刃と靴底が離れている。

なぜブレードにステンレスが使われるのでしょう?私の子供の頃の体験談から言えば、錆びにくい事が印象に残っています。スケートを滑り終えた後はスケート靴をバッグにしまってスケートリンクを後にしますが、バッグに入れる前にブレードをタオル等で良く拭いて水分を除かねばなりません。手入れが悪いと、ブレードは錆びてしまっていました。道具を大事にしなければ、スケートもうまくなりません。

 

3.SUS304

さて本題のステンレス鋼ですが、私たちに大変身近な金属材料であります。スケート靴のブレードについて第2項で紹介しましたが、もっと身近なところで言えば、食器(スプーンやフォーク)、調理器具(鍋、ボール)、流し台が直ぐに目に付くはずです。この種のステンレスは、よく18-8ステンレスと言われることもあります。大雑把に言ってCr18%、Ni8%、残りが鉄鋼というステンレスの1鋼種です。当社ではSUS304と呼んでいます。この鋼種の命名方法を『図解入門 よくわかる 最新 熱処理技術の基本と仕組み』(山方三郎著、秀和システム刊、以下『熱処理技術の基本と仕組み』と略す)のp.93から引用してみます。

SUS304は上の記号構成に当てはめますと、次のように読み取れます。

構成 第1群 第2群 第3群 第4群 第5群
割り振り S US 3 04
解釈 Steel(鋼)のS 主要合金元素記号ではなく、Use(特殊用途)のU、Stainless(ステンレス)のS Cr-Ni系 C含有量0.04% 付加記号なし

 

実際、SUS304の成分表は次のようになっています。

CAS № 元素名 原子記号 含有量 %
7440-44-0 炭素 Carbon C 0.04
7440-21-3 ケイ素 Silicon Si 0.5
7439-96-5 マンガン Manganese Mn 1
7723-14-0 リン Phosphorus P 0.0225
7704-34-9 硫黄 Sulphur S 0.015
7440-02-0 ニッケル Nickel Ni 9.25
7440-47-3 クロム Chromium Cr 19
7439-89-6 鉄 Iron Fe 70.1725

 

4.ステンレスは錆びにくい金属

ステンレスという呼び方は、英語の Stainless より来ています。Stainとは「シミや汚れ」のこと、これがlessなので「より少ない」と読めます。たとえば、サイト 「むらの鍛冶屋」 で 「鉄とステンレス」 → 「ステンレスという名前」 と進んでみてください。

ステンレス鋼とは
鉄鋼(=鉄Feと少量の炭素の合金)にクロムCrを12%以上含有させた合金
と定義できます。次は、『熱処理技術の基本と仕組み』p.112からの引用です。

一般的な鋼は、湿気があると大気中で腐食しやすく高温(550℃以上)ではさらに酸化が進み、機械的性質も著しく低下します。鋼にCrが12%以上加わると、大気中ではほとんど腐食されなくなります。これはCrが鋼表面に緻密で密着性のある酸化保護被膜を形成し、鋼中への酸素の侵入を阻止するからです。

鉄鋼の中にクロムを含有しているというのですが、どのようなイメージを持てば良いのでしょうか?Wikipediaより、それぞれの元素の情報の一部を書き出してみました。

元素名 原子番号 原子半径

※ pm=10-12m (ピコメートル)

26 140pm
クロム 24 140pm
炭素 6 70pm

鉄Fe、炭素C、クロムCrから成る合金(=ステンレス鋼)のイメージですが、大雑把に言って、鉄Feの結晶の中に炭素CとクロムCrが溶け込んでいる様を想像すればよいようです。『熱処理技術の基本と仕組み』p.27に次のような図が載っていました。左側の[2]の図が鉄鋼(FeとCの合金)のイメージ、右側の[3]の図がFe結晶中の一部の原子がCrと置き換わった場合を示しています。
よって、ステンレス鋼は次のように模式化できると思います。

上の模式図に相当するステンレス鋼は、 SUS440 がこのタイプの1つになります。例によって命名法から推測してみましょう。

第1群 第2群 第3群 第4群 第5群
S US 4 40
鋼を表す記号 Use、Stainless Cr 系 炭素量0.40% 付加記号なし

第4類で炭素Cの含有量が0.40% と読めますが、実際はC含有量1%くらいの高炭素タイプとなります。因みに SUS440C の成分表を調べましたら、次のようでした。

CAS № 元素名 原子記号 含有量 %
7440-44-0 炭素 Carbon C 1.075
7440-21-3 ケイ素 Silicon Si 0.5
7439-96-5 マグネシウム Manganese Mg 0.5
7723-14-0 リン Phosphorus P 0.02
7704-34-9 硫黄 Sulphur S 0.015
7440-02-0 ニッケル Nickel Ni 0.3
7440-47-3 クロム Chromium Cr 17
7439-98-7 モリブデン Molybdenum Mo 0.375
7439-89-6 鉄 Iron Fe 80.215

 

5.主なステンレス鋼の種類

これまで SUS304 と SUS440 を紹介して来ましたが、その他のステンレス鋼を含めて一覧表にした表を『熱処理技術の基本と仕組み』p.111から得ました。代表的なステンレス鋼になりますので、ご確認ください。

当社で取り扱っている金属プレート中で、最も重要なカテゴリーの1つでありますステンレス鋼について述べて来ました。本コラムはここまでとします。最後まで目を通していただき、ありがとうございました。

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