お知らせ

コラム

アルミニウムとその加工(コラム3)

【当社のアルミニウム工場】

当社はアルミニウムの専門工場を2017年に竣工しています。鉄やステンレスの加工工場と別棟にすることで、製品はもちろんのこと、切り粉も混じり合わないようにしました。これによりアルミニウム製品への打痕や傷の発生を極力抑え込むことができるのではないかと考えております。

アルミニウムは鉄よりも柔らかいので、製品同士がぶつかればアルミニウム製品がへこみます。また加工途中で鉄の切り粉が飛んで来た場合に、その上に誤ってアルミニウム製品を置いてしまうと、それだけで打痕が発生します。それだけ取扱いに神経を使うので、当社ではアルミニウム工場(職場)で働く人は全員女性です。オペレータはもちろんのこと、管理監督者も女性です。

また切り粉の片付け方も異なります。鉄やステンレスはバケットに切り粉を入れ、切り粉置き場まで人が運びます。これに対してアルミニウムは、工場外に集塵機を設置しておき、工場内にダクトを這わせ、配管を使って切り粉を吸引します。ダクトの中を、空気の流れと一緒に切り粉が運び出されます。アルミニウムは軽いので、掃除機が埃を吸い取るのと同じイメージで、空気の流れで切り粉を移動させることが可能だからです。


【アルミニウムの物性】

何かを基準に比較しないと、「柔らかい、軽い」という上記の特徴も具体的にとらえることができません。そこでここでは、当社の炭素鋼で標準的なS50Cと、アルミニウムA5052を比較してみましょう。ここにあげる数字は目安であり、メーカーの保証値ではありませんのでご注意ください。

鋼種 硬度 比重
S50C 179〜235HB 7.87
A5052 65HB (※) 2.68

※ アルミニウム合金の中で、A7075(超々ジェラルミンとも呼ばれる)が160HBの硬度を持つ。

鉄は持ちますと、手にずっしりと来ます。アルミニウムは鉄の約1/3くらいの重さです。

参考のため、熱的および電気的性質も調べておきましょう。丸善出版から出ております理科年表2019(国立天文台編)より抜粋します。

金属 融点[℃] 20℃での線膨張率α

[10-6/deg]

0℃での熱伝導率

[W/m・deg]

電気抵抗ρ

[10-8Ωm]

1538 7.87 83.5 10 -20
アルミニウム 660 11.8 236 2.50

※ 電気伝導率は電気抵抗の逆数

アルミニウムは鉄よりも温度に敏感に反応して膨張します。熱や電気の伝導率は鉄よりも良好です。

ところで融点は鉄よりもかなり低い温度です。なぜ古代人が鉄を発見して精錬することができたのに、なぜアルミニウムではできなかったのでしょう?次の章では、この辺を紐解いてみたいと思います。


【アルミニウムの発見】

銅が今から約10,000年前、鉄が約4,000年前に発見されたと言われております。それに比較するとアルミニウムはごく最近の1825年の発見になります。発見者はWikipediaによりますと、デンマークの物理学者であり化学者でもあったハンス・クリスティアン・エルステッドとあります。電流が磁場を形成することを発見し、電磁気学の基礎を築いたことで物理学(電磁気学)の教科書に登場する人です。導線の下に置いた方位磁針が動くというイラストを覚えていらっしゃる方も多いかと思います。

ところでアルミニウムは土中にもその酸化物として存在します。家庭菜園等で肥料に興味のある方は、肥料の3要素の1つ、リン酸と結び付けて連想されるでしょう。「アルミニウムと鉄は、土のpHが酸性に傾くと土壌溶液中に溶けて来てリン酸イオンと強く結合してしまいます。そのためにリン酸がなかなか作物に吸収されなくなります。」というように説明されます。

畑の土の中にもアルミニウムが存在するとなると、地表にはアルミニウムがどのくらい存在するのでしょうか?理科年表で調べてみました。地殻とマントルの主成分組成という表に次のように記載されています。

成分 マントル 最上部

マントル

海洋地殻 下部

大陸地殻

中部

大陸地殻

上部

大陸地殻

Al2O3 4.5 2.05 16.75 16.90 15.00 15.40

大陸地殻を平均すると、15.90%ものAl2O3(アルミナ)が存在しているようです。

これほど多くのアルミナが文字通り足元に存在していたのに、なぜアルミニウムの発見までにこれほどの時間がかかったのでしょうか?それはアルミニウムの精錬が難しかったとしか言いようがないように思います。銅や鉄のように、鉱石を溶かす過程で分離(正確には還元)することができなかったからでしょう。私たちの身近にあるアルミニウムですが、ホール・エルー法が開発されて初めて一般人が手にすることができるようになったそうです。

あと社会科では、ボーキサイトがアルミニウムの原料というように学校で習います。この成分をWikipediaで調べてみました。ボーキサイトbauxiteは、酸化アルミニウム(Al2O3, アルミナ)を 52ないし57パーセント含む鉱石である、と出ていました。アルミナを多く含む鉱石からアルミニウムを精錬するという流れが、少し理解できたでしょうか?

参考にアルミニウムの国別生産量をWikipediaで調べてみましょう。

2014年のデータですが、多分、ボーキサイトから製錬したアルミニウムの地金生産重量だと思われます。グラフにしますと右のようになりました。

アルミニウムの原料となるボーキサイトの産出国または電気発電量の豊富な国が名前を連ねています。


【アルミニウムの加工】

ここで再び、当社の工場に戻りましょう。アルミニウムの鋼材には通常、保護シールが貼ってあり、輸送中や保管中に外力が加わっても傷や打痕の発生を抑える仕様となっています。また板厚はJIS規格で決まっており、購入すればほぼ規格センターのものが入荷します。したがいまして、厚みの寸法要求がJIS規格の精度内であれば保護シールを剥がさずに側面4面のみにフライス加工を施す、というご要求が多くあります。4面のフライス加工ですので、当社では4F品と呼んでおります。

お客様の都合で、保護シールを貼ってある面に当社の挽き目を付けてほしいとか、JIS規格にない厚みの製品がほしいとか、JIS規格よりも精度の高い製品がほしいという要求がございます。その場合は、4F品の保護シールを手で剥がして天面と底面の2面に対してフライス加工を施します。こうしてアルミニウムの6F品が完成します。

アルミニウム加工では4F品が圧倒的に多く、中に6F品もあるという特徴があります。

またアルミニウムは柔らかいので、鉄系の材料に比べますと切断やフライスの工程では「加工スピードが速い」という特徴があります。当社の工場見学でフライス盤の加工をじっくり見せたいときは、アルミ工場で時間を取るように心掛けています。加工が早く終わるので、段取りやワークのセット等、人が介在する仕事が良く見えるからです。ここがコストを抑える大事なポイントの1つとなります。

お客様の中には寸法精度がフライス加工では不十分という方もいらっしゃいます。その場合は研磨加工を追加します。研磨機はマグネットでワークを固定できると仕事が早いのですが、磁石にくっつかないアルミニウムは苦手です。

ページトップへ