お知らせ

コラム

【コラム2】鉄鋼と金属加工(第3版)

1.はじめに

このコラムでは、「地下に貯蔵されていた金属がマグマの働きで地表に送り届けられ、それを精錬することで人類が金属という材料を手に入れた」というようなストーリーを想起できたらよろしいと考え、作成しました。地球が鉄でできた惑星であることを考えますと、鉄鋼は将に宇宙からの贈り物とも考えることができます。

また当社はお客様の仕様を注文書で受け、それに合わせて金属プレートを加工し、供給しています。加工技術から眺めると、切断、フライス、研磨、面取り、バリ取りといったことを挙げることができます。金属加工の範囲をできるだけ広げて考えることで、当社の技術がどのような分野に特化しているのかを併せてご紹介してみたいと思います。

 

2.そもそも金属とは

まず「金属とは何か」を定義してみたいと思います。厳密な議論ではなく、ざっくりとした金属という物質のイメージをつかむことが目的です。辞書で引くと「金属とは金属的性質を持った物質」と書かれているものもあります。それでは金属的な性質とは、いったい何でしょか?外観に銀色のような金属光沢を持っている物質でしょうか?

本コラムでは物質がどの位電気を通しやすいのか、導電率で分類してみます。
★ 電気を良く通すものが金属
★ 電気を通さないものが絶縁体
★ 導電率が金属と絶縁体の中間にあるのが半導体
と分けて考えます。電気を良く通すというのは、物質の中に自由電子がウジャウジャあって、電圧を掛けると一斉に自由電子が動き出して電流が流れるというイメージです。電圧の代わりに熱源を置くと、自由電子たちが元気に動き回って、隣へ隣へと運動エネルギーを伝えて行きます。熱源から温度が良く伝わるということですので、金属とは熱を良く伝える性質も持ちます。

ところで自然界にはどのような金属があるのか、まず単体の物質(1種類の元素からなるもの)から眺めてみます。全体像を知るには、周期律表が役立ちます。Wikipediaより引用します。

周期律表の右側の方に、水色で塗られた元素が右下がりに帯状に並んでいます。上の周期律表では「半金属元素」と呼んでいます。これらの元素が半導体です。その帯の右側に、白抜き表示の元素があります。上の周期律表では「非金属元素」と呼んでいます。これらの元素が絶縁体です。そして残り、つまり周期律表の大部分の元素が金属ということになります。

しかし自然界に存在する鉱物資源には、1つの元素からなる純粋なものはほとんど存在しません。取り出したい「目的の元素」から見ると、必ず不純物が含まれております。不純物を除去することにより、純粋であればあるほど価値の認められるものとすると、純金であったり、半導体のシリコンウェハーのようなものがあります。純金は周期律表79番のAu、シリコンは周期律表14番のSiです。

もし鉄の元素記号がなぜFeなのか興味を覚えた方は、むらの鍛冶屋様のホームーページで、

『鉄とステンレス』のページに入り、『鉄とステンレスの質問箱 1』をご覧ください。その他、鉄に関するいろいろな知識を仕入れることができます。

 

3.地球は鉄の惑星

地球には磁気があります。「方位針が北を向く」という現象を学校で習います。また地磁気のS極(方位針のN極の向くところ)と地理上の北極(北緯0°の場所)とが残念ながら一致していないと教わります。それから何十年、筆者は地磁気のN極とS極の位置や強さは変わらないと信じて生きて来ました。菅沼悠介著『地磁気逆転と「チバニアン』(講談社、以下『チバニアン』と略します)によりますと、
★ 地球の磁気の大きさは一定ではないこと、
★ また磁気のS極(地磁気極)の位置が動いていること
が分かって来ているそうです。それどころか、N極とS極が逆転するという「地磁気逆転」が幾度も過去に起こっていたことが調べられています。つまり方位針のN極は今のように北を向いていた時代もあれば、逆に南を向いていた時代もあったということです。

『チバニアン』より直近の研究成果を紹介させていただきます。最新の地磁気逆転の頃のデータです。
グラフの横軸が時間軸で、左側が現代に近い方(76万年前)です。右に行けば行くほど、昔になります。
縦軸は2つの要素を表しています。左側の軸が地磁気極の緯度で、-90°(南極点に相当)から90°(北極点に相当)まで目盛が振られています。0°が赤道になるのでしょう。グラフは破線で描かれていて、「松山期」という時代はS極(地磁気極)が南極側にあって磁針のN極は南を指していた時代でした。それが今から77万3千年前くらいまで続きました。その後、S極が赤道を越えて北半球に動いて来ます。地磁気逆転です。そして「ブルン期」に入りますと現在と同じ北極近くにS極(地磁気極)が留まるようになったのです。これが直近の地磁気逆転現象で、「松山・ブルン境界」という名前が付いています。
グラフの右側の軸が地磁気の強さを表しており、太い実線で描かれています。地磁気逆転の頃にかなり磁気が弱くなっています。直近の地磁気逆転が77万3千年前で、更にそれより前にも地磁気逆転が何度か起きていたとは、驚きであります。

ところで学校では、磁気を帯びる金属として鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)を教わります。それでは地球の磁気は、何から生じているのでしょうか?それは鉄です。「地球の核が主に鉄でできているから」です。地球を水の惑星と言うことがありますが、それは地球表面に限った場合を指すのではないでしょうか?最も多い元素成分で表現すれば「地球は鉄の惑星」であります。

もう少し磁気と鉄(鉄鋼)の話を続けましょう。最初はヨーク(継鉄、Yoke)という製品の話です。筆者は、ヨークという部品名でいろいろな形状のプレス部品を扱ったことがあります。磁石と組みあわせて磁気回路を構成する時に使われる部品です。

例えば身近なところでは、マグネットクリップです。カバーがプラスチック製ではなく、金属製のものを思い浮かべてください。このマグネットクリップでは、金属部品に「モノを挟む」という機能の他に、「磁気回路を構成する」という機能を併せ持たせています。この金属部品があるのとないのでは、全く吸着力が違います。

特殊用途では、ヨークの材質に純鉄SUYを指定することがあります。金属プレスの材料の中では大変柔らかく、変形しやすいので取扱いには注意が必要です。鉄鋼はプレス加工すると磁気を帯びるという性質がありますので、残留磁気を気にする場合には磁気焼鈍してから出荷します。プレス加工はもちろんのこと、磁気焼鈍のプロセスや運搬・保管で変形をさせないというのが重要な管理ポイントとなります。

もう1つ、磁気に関連する話をします。今の電源はスイッチング方式に移行しておりますが、昔は鉄心を使う変圧器がほとんどでした。鉄心に要求される第1の特性は、磁束をよく通す(透磁率が大きい)ことと残留磁気が小さいことです。変圧器の電気効率を下げる一つの要因に鉄損(ヒステリシス損)があり、鉄損を小さくするための要求となります。ヨークと似た特性でありますが、使われる鋼材は電磁鋼板(珪素鋼板)です。鉄鋼の中にSi(ケイ素)を入れています。また渦電流が流れると電気損失が増えてしまうので、表面が絶縁され、かつ薄いシート状の電磁鋼板を用います。

単相変圧器用にはアルファベットのEとIの形に金属プレスで電磁鋼板を打ち抜いて積層して行きます。具体的にはまずは巻き枠(ボビン)の上に銅線を巻いたコイルを用意し、E形状の珪素鋼板の真ん中の脚が常にこのコイルを貫通するように互い違いに積層して行きます。E形状の珪素鋼板を所定の枚数だけ積層しましたら、空いている空隙を I形状 の珪素鋼板を押し込んで埋めます。ケースで珪素鋼板を固定した後に含浸して完成です。

設計では、珪素鋼板の使用率を高める、つまり端材をできるだけ出さないということが製造原価の胆になります。通常はE形状とI形状を2セット一緒に金属プレスで打ち抜きます。材料の使用率を高めるという技術は、当社の切断工程の板取りと共通する考え方であります。

変圧器には巻鉄心と言って、珪素鋼板を直方体形状の芯金に巻き取って作る方法もあります。鉄心の状態で含浸して半分に切断します。これとは別に銅線を巻いたコイルを用意しておいて、コイルを挿入した後に分割された巻鉄心をバンド等を用いて固定して変圧器にします。

以上、継鉄と鉄心という2つのタイプの製品をご紹介しましたが、いずれも、用いる金属材料はシート状の鉄鋼であります。圧延を繰り返して薄いシート状にした材料です。通常は室温で圧延しますので、冷間圧延した鉄鋼と言えます。それでは圧延する前の状態はどうだったのでしょうか?一般的には熱い状態で圧延、つまり熱間圧延した鉄鋼であります。更に遡って言うならば、溶解した鉄鋼はどこから作るのでしょうか?

 

4.金属の精錬と鉄鋼

人類が最初に手に入れた金属は、金であったでしょう。人類の歴史において金が重宝されたのは、その希少価値と同時に酸化されにくい性質、つまり製錬のしやすかった金属であったからでしょう。その次に歴史上に登場するのが銅です。熱を加えることで還元反応を起こさせます。青銅器もこの仲間です。そして次が鉄(鉄鋼)と続きます。どちらも地球上の酸素と結合し、酸化物として存在しています。

純粋な金属の場合、つまり不純物がないと融点はおおよそ次のようになります。
・ Au(金) 1064 ℃
・ Cu(銅) 1085 ℃
・ Fe(鉄) 1536 ℃
ここで志村史夫著『古代の超技術』(講談社)に掲載の温度を引用してみましょう。

金属の種類 精錬温度 融点(参考)
奈良の大仏を作るのに使われた長登の銅鉱石、5%の砒素含有 1000℃前後 Cuは1085℃
近世たたら
鉄穴(かんな)流しという比重選鋼法で得られた純度の高い砂鉄が原料、熱源には木炭を使用
1200~1300℃ Feは1536℃
現代の溶鉱炉

鉄鉱石が原料、熱源はコークス等

1400~1600℃

たたらで精練した鉄鋼からは日本刀ができます。近代的な設備から作り出される鉄鋼では、伝統的な日本刀を作ることができません。日本刀を今後も作り続けるためには、昔ながらのたたらという鉄鋼の製法を守らなければならないのです。

その後、人類はいろいろな金属を手に入れます。一つの方向とすると、不純物の少ない単一元素の金属精錬、もう一つの流れが金属と他の元素を混ぜ合わせて合金を作り出すことです。第3項の記述とダブりますが単一元素としては、純金とかダイヤモンド、近代ではシリコンウエハと言うようなものが代表格でしょう。純鉄もその方向の鋼種です。

一方の合金ですが、より正確に定義すると
一つの金属元素に一種類以上の別の金属元素または非金属元素が結び付いた物質で、全体として金属的性質をもつもの。
となります。当社の社名でありますシュタール(ドイツ語で「鋼」という意味)は、鉄Feと炭素Cの元素の「合金」です。これら以外の元素を意図的に添加したものが「合金鋼」となります。おおよそ次のように分類して考えるとよろしいと思います。

それでは鉄鋼はなぜ炭素を含有するのでしょうか?鉄あるいは鉄鋼は、鉄の酸化物であります鉄鉱石を還元して作ります。還元に使う物質が一酸化炭素(木炭やコークスから発生)で、鉄鉱石が還元されることの引き換えに一酸化炭素が酸化されて二酸化炭素が大気中に放出されて行きます。また同時に溶解した鉄鉱石の中に、炭素が取り込まれて行きます。

実はこの炭素を含めて、鉄鋼材料のJIS規格に登場する元素は27種類あります。最も多く登場するものから
P(リン)、S(硫黄)、C(炭素)、Mn(マンガン)、Si(珪素)
です。これらを特に、「鉄鋼の5成分」と呼びます。これら5元素の含有量を管理しないと鉄鋼材料の特性が変わってしまう可能性があるという意味で、重要な元素と言うことができます。PおよびS の 2 元素は鉄鋼中に不純物として混入し、材料特性を劣化させるので、最大含有率を規定している場合が多くあります。またCは鉄鋼材料の強度に多大に影響する成分であることから、多くの品種で規定されています。

国際社会は脱炭素社会に大きく舵を切りました。再生可能エネルギーと省エネがキーワードでしょう。そして再生可能エネルギーから連想されるのが太陽電池、風力、潮力、水力といったところでしょうか。例えば太陽光発電で使用される電池パネルでありますが、それを支える構造物には鉄鋼が使われることが多いでしょう。また鉄鋼は何よりも、既にリサイクル技術が確立されており、環境にやさしい材料であります。金属はこれからも社会の大事な資源として生き残って行くものと考えられます。また製錬の還元剤として一酸化炭素ではなく水素を利用する研究も進んでいるようです。そうすると新しい鋼材が生まれて来るかも知れません。ワクワクするような未来を若者たちに引き継いで行きたいものだと希望します。

 

5.金属加工のこと

さて金属加工ですが、いろいろな分類方法があると思います。ここでは加工により製品質量(被加工物であるワークの重さ)が減るのか、増えるのか、あるいは変わらないのかという観点で分類してみました。つまり金属を構成する原子数が、加工により金属本体から減って行くのか、どこからかやって来て金属本体にくっつくのか、あるいは変わらない(または移動するだけ)なのかで分けてみました。厳密さを余り追求しないようお願いし、お付き合いください。
(注) 複数の金属を繋ぎ合わせることを一般的には接合と言います。これも金属加工の1種でしょうが、本コラムでは金属単体(1枚の金属プレート)に対する加工に限定させていただきます。

当社にある加工を赤字にしておきましたが、大雑把に言って下のような表にまとめることができると思います。

金属原子数の増減

(重量増減)

金属加工の種類 金属加工の説明 具体的な加工方法
減少 切断、切削 刃物によりワークを削る。 バンドソー切断加工

丸鋸切断加工

旋削加工

フライス加工(注1)

穴あけ加工

歯車加工

ブローチ加工

研削 砥石によりワークを削る。 平面研削

円筒研削

芯なし研削

両面研削加工

ホーニング加工

超仕上げ加工

ELID研削

面取り加工

砥粒研磨 砥粒によりワークを削る。 ラップ加工

バレル加工

放電加工 電極とワークの間で放電させ、ワークを削る。 ワイヤ放電加工

型彫り放電加工

溶断、切断 溶融あるいは高エネルギーでワークを切断する。 レーザ切断

ガス切断

ウォータージェット切断

変化なし 鋳造 金属を溶融し、型の中で凝固させて所定の形状にする。 重力鋳造

ダイカスト鋳造

低圧鋳造

ロストワックス

連続鋳造

塑性加工 金属を大きい力で塑性変形あるいは切断し、所定の形状にする。 自由鍛造

型鍛造

押し出し

引き抜き

圧延

曲げ加工

深絞り加工

せん断加工

ファインブランキング

順送型プレス加工

焼結 材料粉で所定の形状を作り、焼成することで強度を得る。 焼結加工
熱処理 熱サイクルにより金属材料の組織を改善する。 焼き入れ

焼き戻し

焼きなまし

焼きならし

表面熱処理 金属材料の表面のみの組織を改質する。 炎焼入れ

高周波焼入れ

レーザ焼入れ

電子ビーム焼入れ

浸炭焼入れ

浸炭窒化焼入れ

窒化処理

増加(注2) 電気化学処理 金属材料の表面に金属膜、酸化膜を生成させる 電気めっき

無電解めっき

3価クロム化成処理

リン酸塩処理

アルマイト処理

塗装 金属材料の表面を塗料の被膜で覆う表面処理法 流し塗り

ローラー刷毛塗り

電着塗装

スプレー塗装

静電粉体塗装

流動浸漬塗装

積層造形 必要な部分に材料を付加・固化し所定の形状を作る 金属3Dプリンター

 

(注1)「お知らせ」のページのコラム1を参照ください。
(注2)電気化学処理や塗装では、一般的に金属材料の酸化膜を除去するという工程が最初に来ます。よって厳密に言えば重量は一度減ってから増える事になりますが、最終的には重量増加と言えると思います。

当社の加工は、全てが重量減に分類されることに特徴があります。仕入れた鋼材を切り出し、その表面を削るという仕事であり、工程が進むにしたがって製品重量が減って行きます。減った分は切り粉として業者に引き取っていただき、残ったものが商品として出荷されて行きます。模式図で描くと、次のようなイメージであります。

穴明けやめっき等の表面処理を、当社では2次加工と呼んでおります。現状、2次加工は当社の営業外であり、お客様での手配をお願いしております。

なお切削加工や塑性加工の全体像をより詳しく知りたい方は、キーエンス様ホームページより『機械加工入門』をご覧ください。より広く、個別の加工機械に関する情報を得たい方は、工作機械のイロハ様のホームページ『誰でもわかる!工作機械・板金機械を徹底解説』の工作機械の欄をご覧ください。



【来歴】
第1版 2019年10月22日 公開
第2版 2019年12月26日 【金属加工のこと】の直前に表を追加し、他のコラムで取り上げている/取り上げる予定の鋼材を案内
第3版 2021年7月9日 タイトルを『金属から金属加工』より『鉄鋼から金属加工』に変更し、項目番号を付与
・ 第1項 一部変更
・ 第2項と第5項はほぼ変更なし
・ 第3項と第4項を新規に記述

ページトップへ